「いらっしゃい、波音ちゃん」



そう言って微笑みかけてくれたのは、涙のお兄さんの雅臣(マサオミ)さん。



私と涙が結婚する事になって、挨拶に行った時に「可愛い妹が出来て嬉しいなぁ」って言ってくれて。



それから可愛がって貰っている。




「あ……コレ、蜜柑です」



雅臣さんに蜜柑の袋を手渡す。



「蜜柑!?本城さんありがとー」



だけど、雅臣さんが袋の中身を確認する前に、目を輝かせた涙が袋を奪って蜜柑を取り出す。




「昨日兄貴が持ってきてくれた分、食べたんだよなー」




と言いながら早速皮をむきはじめる涙。




「……波音ちゃんは、もう聞いたんだ?記憶の事」



涙を呆れた様子で見ながら少しだけこちらに顔を向けた雅臣さん。

「はい、昨日……。
涙の事だから、もう全部食べ終わってるだろうなーと思いまして」


私が小声で答えると、「さすが」と帰ってくる。




昔と行動が変わらない涙。




行動が読めていた事が、嬉しい。



「……あの、お兄様のお知り合いの方ですか?」




美味しそうに食べる涙を眺めていた時、いきなり話し掛けられてその人物の方に目を向ける。