「っ、ここでいい!」
そう言って、シートベルトに手をかける。
もうここからは走っていった方が良い。
ドアを開け外に飛び出すと、暖かい車内にいた反動で突き刺すような外気に思わず顔を歪めた。
「メリークリスマス」
ひらひらと呑気に手を振る正臣は、急いでいる俺から見ると少しいらっとするけど。
「……ありがと」
聞こえたかどうかは分からない。
ぼそっと呟くように正臣に礼を言って、俺は待ち合わせ場所へと走りだす。
19時の約束は既に少し過ぎている。
それに……指輪を返してきた波音が、まだ記憶が戻っていないだろうと思っている波音が
まだこの約束を有効としてくれているか分からない。
待ち合わせ場所に来るかどうかも分からない。
だけど、波音はきっと優しいから。
俺が来ないと思ってても、一応はあの場所に来るんじゃないか……と変に確信を持つ俺がいるんだ。
それに……居なくてもいい。
待ち合わせ場所にいないなら、波音の家まで行ったっていいし。



