これ以上ここにいる意味は無いのは分かるけれど、もう少し何か談笑してから帰るものだと思っていた。



それが顔に出ていたらしい。


見上げる俺をレイコさんは見下ろしてふっ、と微笑むと



「もうちょっとここにいて欲しい?」



いたずらっ子のような声音で聞く。




「あ、や……」


いて欲しい、と思いはしない。



けど、欲しくないとは上司には言えない。




返答に困り苦笑する俺を見て、レイコさんはまた笑う。



「冗談よ。今日はもう帰るわ。仕事……無理しないでいいからね」


そう言い残して去っていくレイコさん。



あっという間に3人もいた室内が俺1人になってしまい、少し寂しくなる。




レイコさんがすぐに帰る事が分かっていたなら、本城さんを引き止めてたのにな……。




勿体ないこと、したな。



「また、明日、か……」


手帳の赤いマークは結局誰との約束なのか分からなかった。


25日まで、あと少し。


せめて場所さえ思い出す事が出来れば……