本城さんの方へと視線を向けた時にはもう既に立ち上がりバックとジャケットは腕の中。



少しの間でも、レイコさんと仕事の会話になって本城さんを蔑(ないがし)ろにしてしまった。



きっと彼女は気を利かそうとしているんだ。




「明日……来れる?」


ここで止めてもきっと本城さんは「ううん、帰る」と言うはず。


だから、引き止める事は諦めて、聞く。




“いつ来れる?”では無くて“明日”と日付を断定して。




「仕事帰りに来るね」


少し表情を緩めての言葉。

自然な流れでまた明日来てくれることになり、俺もまた「気を付けて」と笑顔で返す。



本城さんはレイコさんに頭を下げると、そのままコチラを振り返る事無く部屋から出て行った。


俺は、ドアが閉まるまでずっと見送っていたけれど、今日は後ろ手で閉めた為どんな顔をしていたのか確認出来なかった。


……きっと、笑顔では無かった、と思う。



「……じゃあ私も帰るわ」


「え?」


本城さんが出ていってすぐに、今度はレイコさんが立ち上がる。



もう、帰る?