勢いよくシャワーを頭から被れば、このよどんだ胸のつかえは取り除かれないだろうか。



風呂から出たら、ちゃんといい笑顔をむけられるだろうか。



自問自答を繰り返しつつ濁りのない水滴を全身に浴び、身を清めた俺は、タオルで髪を拭きながら再び台所へと向かった。



仕事で忙しい母は、やはり今日も家にいない。



母が作り置きしてくれてるおかずを物色し、適当に夜飯をおぼんに乗せる。



父も今日は夜勤でいないから、弟と一つ屋根の下で過ごす。



常に各自で飯を食う寂しい家庭環境だから弟の分だけ残しておけば、文句も言われないだろう。



夕方はとうに過ぎてて、腹も減ってきた。



俺が減ってるなら、真由も腹をすかせているに違いない。



頭にタオルをのせたまま気をきかせ二人分の夜飯を両手で運び部屋に戻ると、真由はベッドの上でどこから取り出したのかエロ本を読みあさっていた。



「これ勝手にあざいちゃった。すんごい数あんだね」



「お前さぁ~人の部屋勝手にいじんなよ。泥棒かっつの」



「いいじゃん。聖の物はあたしの物。あたしの物はあたしの物。なんてね」



「はいはい」



さっきエロ本が見つかった時は目玉が飛び出そうだったが、なぜかやけに冷静でいれる自分がいる。



あきれながらも笑顔が自然と漏れるんだから、意外と緊張がほどけてたみたいだ。



シャワーを浴びてリセットしたのは正解だったかな…



近くにいる人間がじつはそういうやらしい行為をしたがってるなんて考えてもいない真由を背に、俺はガラステーブルへおぼんを置いた。



時間が経ち、表面がふやけてしまった春巻とミスマッチなクリームシチュー。



その横には、母得意の茄子の漬物と白いご飯。



質素だが、結構好きなメニューだ。