悲しい過去を教えて貰ってて、貴方を深く知れたから、もっと愛しくなって。
だからこそ、その度に生まれる躊躇いへ打ち負けそうな弱い自分が嫌なのに。
仕事なら何でも聞けるクセに、どうしてこういう時には黙っちゃうのかな・・・
「…ちょっと真帆、聞いてるの?」
「え、あぁ…!ごめん、何だった?」
その問い掛けでハッと我に返ると、向かいの席でニッコリ笑う人物を捉えた。
「何だったじゃないわよ、もう!
貴重な時間を割いて来てんのよ?」
「ハハ…、そうよね、うん」
「このまま静岡の施設へ出張だしさー。
纏まった休みが欲しいのに、全然取れないんだけど…」
苦笑して相槌しか返せない私を尻目に、ズーっとオレンジジュースを飲む彼女こそ。
学部ゆえに少ない女子の中で知り合った大切な友人、瑞穂(ミズホ)そのヒトだ。
「すっかり研究者っぽくなったよね」
「失礼ね!私は一人前だってば」
私の発言に憤慨する彼女は、国立機関の研究員という立派な肩書を持つ才女だけど…。
「だって髪型とかメイクとか…、前より落ち着いてるし」
「いい加減、アラサーが頑張っても仕方ないでしょ?
コンパに行くより、今は自分の身体を労わりたいのよ。
だいたいね、アンタが言うか?」
かつての女王様がした発言を、ぜひとも歴代の彼氏たちに聞かせてあげたくなる。
「…瑞穂より、もっと早く落ち着いてたもん」
「ソレは黒岩さんのお陰でしょうが」
着実に流れる時間は変化を齎しているけど、彼女に一本取られる顛末は変わらない・・・

