宙を彷徨いそうな手をひかれて向かう先は、もちろん私たちの住む2人の部屋――



何時もよりも遥かに明るい空模様を一瞥しながら、少し前を行く彼の背中を見つめた。



サラサラとした栗色の髪はふわりと揺れ、グレイのスーツはスタイルの良さを際立てる。



黒岩 修平という人が此処に居ると私に知らしめる度、いつも嬉しくて仕方無かった。



このままで居続けたいと呑気に考えていたのも、何時しか覚えてしまった甘えからで。



彼のお陰で出合えた仕事へ支障を来たした事に、今さら反省するお粗末ぶりだね…。




修平と離れていた2年間から、いつの間に弱さを身に着けていたんだろう・・・




するとコツコツと立てていた革靴音が突然に、ピタリとその響きを止めてしまった。



スッとキーを差し込む彼の行動によって、ようやく我に返ったけれど時すでに遅し。



「ごめん、カギ…!」


「そんなの良いよ、ほら」


「ありがとう」


ドアノブに手を掛けた修平に促された私は、申し訳なさ倍増でおずおずと入室する。



間もなく背後で音を立て、バタンとドアが閉まった瞬間に爽やかな香りに包まれた…。




「真帆…、何で言わなかった?」


「しゅ…、んっ――」


「…話よりも先に、する事があるけどな――」


言葉を紡ごうとすれば身体を翻されて、そのまま強引に唇を覆われてしまう…。