ポケットから携帯電話を取り出した修平の表情は、一変して険しいモノになった。



躊躇いながらも通話ボタンを押した彼は、その歩みを止めずに会話を始めてしまい。



少し前を行く私は会話を聞くのも失礼だからと、もう少し距離を広めようとすれば。



グイッと後方から腕を引かれて、振り返る間もなくその間を縮められてしまう…。




「ハイ…黒岩ですが――」


ビジネスモードには珍しく、低い声色で電話に出た修平に目を丸くさせられた。



話し声は聞こえないので、会話から察するに日本人だとしか判断はつかない。



そうして社屋を抜けてから並んで歩くようにと、目で促す所作に諦めて合わせれば。



ダークグレイの瞳でこちらを一瞥して頷いた彼が、ひとつ呼吸を置いて目を閉じると。




「あのな…、それは本社の人間で解決する事案だろう…。

俺はもう本社の人間じゃないし、まして今は現場を離れている身だぞ?」


「っ・・・」


修平が紡ぎ出したフレーズは、彼の態度の不可思議さを解決するモノだったから。



思わず立ち止まってしまった私を、修平は再びチラリと視線を落として窺って来る…。




「…大体オマエの用件は別にあると踏んだが、違うのか?

…それなら先に、何を言ったか聞かせて欲しい。

あぁ、もちろんプライベートに関してな――…」


「ッ――!」


敢えて名前を伏せて尋ねてくれたのは、優しい彼らしい気遣いの表れだというのに。



本社イチのエリートと目される大神チーフとの電話で、私はソレすら気づけなかった…。