クスクス笑っていた彼に頬を膨らませつつも、2人で役員室をあとにする事に…。
此処は同じオフィスなのかと思うほど、シンと静まり返ったフロアを進みながら。
それでも仕事場に留まる“今”は、当然のように各々の進捗状況に話が及ぶ――…
「本社の件は一段落として…、あとC社の件はどうだ?」
「そちらの方は…、原材料同士の比率に苦戦しておりますが…。
岩田くんも頑張っておりますし、あと少しかと――」
気難しいと評判の担当者から受けた、C社からの依頼品の担当者は岩田くんでも。
上司である松岡さんがフォローに回っていて、今のところはゆっくりと進んでいる。
そう言葉少なく終えたのは、この件に関してすべてを話す役目が私ではないからだ…。
「そうか…ただ、悩む事が多いほど得る物も大きい。
悩めるだけの案件が舞い込んで来る、ウチの会社は幸せだ…」
「えぇ、そうですね」
仕事の話となると役員の顔つきに変わり、ダークグレイの瞳も輝きを増していく。
「たまには俺も、研究室で制作に没頭したいけどな――」
「ふふっ…、松岡さんも同じ事を言いますけどね?」
ともすれば仕事人間で固い印象を受けるけれど、キリりとした面持ちに胸は高鳴って。
エリートと呼ばれる事に甘んじず、常に上昇志向で初心を忘れぬ彼を尊敬している私。
試作部に自ら飛び込んでみて分かったのは、賢いだけでなく根気が必要である事で。
念密に構想を練ったにも関わらず、失敗が続くとやっぱり落ち込みたくなるのも本音。
だけれど達成感を得られて、公私ともに彼を支えられるこの仕事が大好きなの――…

