セキュリティチェックを潜り抜けると、開いたドアの先はいつもと変わらない光景で。
そのバタバタと慌ただしい中へ足を踏み入れると、いつもより急ぎ足で歩き始めた…。
何となく仕事モードに入れなくて、職場環境を客観的に眺めてしまっているけれど。
電話応対やサンプル品を持って動き回る部内が、やっぱり落ち着くと思えるのは。
イロハも知らずに飛び込んだ私が、この仕事の魅力に取りつかれている証拠かな…?
「あれー、まだ居たの?」
「…どうしてですか?」
周りを一瞥しながら構造課へ到着して、手早くデスク上を片づけ始めようとすれば。
少しばかり離れた課長席を立つと、お得意のスマイルを見せて尋ねて来た松岡さん。
何となくお邪魔虫とも取れる問い掛けに、動かそうとしていた手が止まったのに…。
「“ランデブー”に興じちゃってるかとー」
「なっ…、どうしてソッチへ話を向けるんですか…!」
「ソッチって…、真帆ちゃんこそヤラしーい」
「知りません、もうっ!」
私を眺めながらケラケラと笑う表情は、どう差し引いてみても遊んでいるようで。
人の怒りを沈める事が容易ければ、反対に増幅させる事もお手のモノだから困る。
「せっかくの美人も、怒ったら綺麗さ半減だぞー?」
「美人じゃないから構いません!」
修平が彼と会う度に溜め息をついているその理由を、今日は大いに納得した気分。
部下であり毎日顔を合わせている私でさえ、スマイルキラーの性質は理解に苦しむ…。

