カッ、カッ…と忙しないヒール音を立てながら、歩みを進める絵美さん。
そんな彼女に引っ張られた状態が継続する中、私はただついて行くしかなくて。
モデル体型の絵美さんと私では、明らかにコンパスが違うから困りモノだ・・・
ヒールという不安定な足でバランスを取っていると、ようやく彼女が立ち止まった。
「ほら真帆ちゃん、帰る準備して来て」
其処はシンと静寂に包まれていたパウダールームとは違い、騒がしい部内の入口だ。
試作部では情報漏洩防止の為に、最新鋭かつ万全のセキュリティが施されていて。
いくら同じオフィスで働く社内の人間だとしても、易々と足を踏み入れられない。
だけれど部内の人間と同行ならば、問題なく部内へと入る事は許されるのに…。
「絵美さんは行かないんですか?」
「いーや、今は“あんなヤツ”の顔を見たくないの。
本社のウザ男の次に、ムカつくヤツに成り上がったわ」
試作部はおろか社内でも、デキると評判の松岡さんを酷評出来るのは彼女だけの筈…。
「ごめんなさい…、私たちのせいで」
腕を組む不機嫌な様子から察するに、松岡さんとまた喧嘩したのかな?
私のだんまりを決め込んでいた強情加減が、此処まで飛び火しちゃったんだ…。
「何言ってんの、真帆ちゃんは悪くないし!
気にしないで良いから、行って来てね?」
「うん、それじゃあ…」
試作部に似つかわしくない華やかな絵美さんに促されて、私は眼前のドアを開けた…。

