私たちが試験場へ向かうと、岩田くんとチームを組む部下と松岡さんの姿があった。
修正を加えて仕上げたサンプル品を掲げ、もう片手で電話を持つスマイルキラー。
むやみに音を立てないよう、私と岩田くんは静かにドアを閉めて入室したけれど…。
「えぇ、そうですね・・・
担当者の不手際については、大変申し訳なく思っております…。
しかしながら、量産移行後の修正は困りかねる部分もありますので・・・
恐縮ですが、今後はその点をご考慮下さいますと幸いです。
いえ…、それでは失礼いたします――」
柔らかい声色とは対称的な表情を浮かべつつ、ピッと終話ボタンを押した。
どうやら部下2人は、異名とは真逆の鋭さから硬直して動けずにいるらしい。
オンとオフの切り替えの絶妙さ…、これがスマイルキラーの真髄だと思う・・・
「松岡さん、如何でしたか…?」
手にしていたそれぞれを置いた彼に話し掛けながら、距離を縮めて行くと。
「あぁ…、“話せば解る人”だった」
「申し訳ありません、私の確認不足でした…」
此処でようやく笑ったスマイルキラーに、深々と頭を下げてお詫びをした。
念密に順序立てて行ったという緩慢さが、結果としてトラブルを招いたのだから…。
「吉川さんじゃないです…!
担当の俺らの責任です、本当にすみませんでした!」
私の謝罪を打ち止めするように、部下2人が深々と松岡さんに謝罪を重ねた。

