まさに言うは易しであって。それを実際に行動に移した板さんだから胸に響くのだろう。


「多分、板さんに惚れてこの店のリピーターになったんだろうな。

日本食が恋しくなった時は、夜にこの場所で風景眺めながら食べられたからね」


そう言って日本酒のボトルを空けた彼は、今度は違う銘柄の小ボトルを店員さんに注文。



“飲みすぎて饒舌になったかも?”と言うあたり、まだ酔うほど飲酒していないようだ。


「でもほんとーに贅沢よね、この席って!」


「だろう?多分、摩天楼を眺めるならココが一番だよ」


「うん、綺麗な景色を見てご飯も美味しいなんて最高ね」


新たな日本酒のボトルの中身を彼のグラスへと注ぐと、すぐ飲み干してしまう彼に笑う。



両親たちの年代では退職後の生活を考えたり、健康に過ごせるように気を配っていたり。



私たちの年代だと転職を考えてしまったり、結婚を意識したり焦りの色を見せたりする。



私の学生時代も抱える悩みはあって。社会人になっても、尽きない悩みが生まれている。



それを悩みとして抱えているか、はたまた成長するバネとして捉えるかで大きく違った。



そう気づかせてくれたのも、仕事や日々を大切に生きている修平に出会えてからだろう。


「とっておきスポットに連れて来てくれて…、今日はありがとう」


「真帆の存在があったからだよ」


「…え?」


ふと耳に届いた声色に顔を上げれば、グッと肩を引き寄せられる。驚いたのも束の間――



「生きることを疎かにしていた頃も、心のどこかで人を信用出来ずにいた自分の弱さもすべて、ようやく消化出来始めたのは真帆のお陰…。

アノ頃――2年もひとりで待たせる選択が正しかったのか、…いつも此処で問い掛けていたよ。

でも、ようやく今日此処へ真帆を連れて来ることが出来て、かすかな迷いも消えた」


「・・・え?」


紡ぎ出される言葉があたたかくて、ダークグレイの瞳はいつも以上に優しくて困惑する。