私は前に写真で見ただけである。支社で彼と接触する機会はゼロで、いわば雲の上の人。
確かタイムズ紙の“世界に影響力を与えた100人”に、彼は選出されてもいるそうだ。
圧倒的なオーラに加え、強さのある眼の奥の輝きは正真正銘のエリートを物語っていた。
「君がかの有名な、マホさんだね?」
「え、はい、そう、でございます。
いつも大変お世話になっております。日本支社の…」
ふとその眼差しを向けられ、穏やかな顔で私の名を呼ぶCEOに対し、慌てて挨拶する。
「ああ、堅苦しい挨拶は要らないよ。
それにお世話になっていたのは、コチラの方だからね」
と、それをスッと掌を出した彼が端折る。そのため笑顔と意味深長な言葉に首を傾げた。
今日が初対面であったし、勤める企業のトップの表情を探る余裕を持ち合わせていない。
「愚息、と言えば分かるかな?」
「…え?えええ!」
その間に表情をあっさり読み取られたのは私の方。もちろん彼の言葉で驚嘆させられる。
場内はCEOの登場から静けさで包まれていたため、余計にその声音がホールに響いた。
「ジョシュアが面倒を掛けたようですまなかったね」
「い、いいえっ」
「まあ、いずれは…と思っているが、まだまだアイツは人間修業が足りない。
いくら賢くても人との繋がりが持てなければ、トップとして人を率いて行くなど到底ムリだ――キミならばよく分かるね?」
「…何となく、ですが」
彼の言葉はジョシュアに足りないものをピシャリと指摘した。それに戸惑いながら頷く。
「自分がすべて。誰の言葉にも耳を傾けない。人に求めるのは結果のみ…いや、人を物として見ていただろうな。
妻に先立たれてね、息子をナニーたちへ任せきりで仕事に没頭していた私の責任だが…。
ただひとりの後継ぎだと、息子には学識ばかりを追い求めさせてしまった。…本当の意味で、学ぶべきものを蔑(ないがし)ろにさせたんだ」
フッと自嘲して諸事情を話してくれたCEOに、とうてい言葉も見当たらず閉口する私。

