その品の前にシャネルのリップ下地をブラシで全体に塗られると、軽くティッシュオフ。
そしてべネティントを取り出した彼女は、ハケブラシを私の唇の中央へちょんと乗せた。
「素早く馴染ませて乾かすのよ」と言うとおり、今度はスポンジで唇全体を優しく叩く。
何度かその作業を繰り返していくと、ほんのりとローズの香りが漂って心地が良くなる。
リキッド状のそれはすぐに乾き、次に手にした品はクリニークのリップ・スティックだ。
バターシャインの名の如く、口紅の割にはシアーな発色と瑞々しい艶めきが魅力の製品。
“マホにはピンク系よね”と言った彼女は、慣れた手つきでリップブラシをまた動かす。
「どう?グロスで艶々に仕上げるのもテだけど、今日は取れにくいようにスティックにしたのよ」
するとどうだろう。言葉の通りに、先ほど塗って来たリップとは雲泥の差の仕上がりだ。
溺愛のラディを否定したのではなく、唇に生まれた赤みとぷっくり感にただ感動した私。
口紅とグロスの組合せでは決して出せない、自然な赤みをさした唇は肌も綺麗に見せる。
「こ、これ…買う!」
「ベネフィットの顧客ゲットに貢献しちゃった?」
「キュートよマホ」
じーっと鏡を凝視する私を茶化す2人に笑ったものの、メイクの魔法にはまた高揚した。
そして最後にヘアアレンジを加えると言われたけれど、それだけは丁重に断りを入れる。
確かにメイクで手の込んだ状態の顔に仕上がったから、少々つり合いが取れないと思う。
もちろん理由を言わずに聞き入れる2人ではない。押し問答の末に口を開いたのは私だ。
「…あー分かったわ、言うから!――修平が撫でてくれるの!ストレートだと」
アラサー手前で何を勿体ぶる必要があった、と言い切ってから一抹の恥ずかしさが襲う。
「な、なんてキュートなの…!それなら私も撫でるー!」
「こらジェン。シュウの“スペシャル”を盗らないの」
“それならコレで譲歩するわ”と、リリィはヘッドアクセをつけるのみに留めてくれた。

