そう言ってリリィから強引に引き離すと、今度はグリーンの瞳が美しい彼女に捕まった。
“ジェンの悪いクセが出たわ”と後方から聞こえた不満の声は、もちろんリリィである。
これで本日何度目か分からない彼女らしいハグにも慣れているが、ふと耳元へ囁かれた。
「驚いた?」
「…驚いた、すごく。…修平が日本に帰国した日の、次にね」
それは最高!と声を響かせた彼女は、ちゅうっと私の両頬へ交互にキスを落としてくる。
――当人たちの知らない間にパーティーを計画されていれば、誰もが同じ反応になる筈。
そして出迎えてくれた人達は、リリィをはじめとした本社・試作部のメンバーであった。
「ふふっ、…シュウの呆然とした顔は見物だったわ。ねえリリィ?」
「ほんと、クールな男にヒト泡吹かせると気分いいわ」
変わらず私をハグして離さないジェンとリリィの同調に、この2人の属性はすぐ察した。
「でも、キュートだったわ。私はマホの反応に萌えちゃったもん」
「…あ、アラサーに萌えないで。ね?」
「やだ、萌えに年齢の話はナンセンスよっ」
「また始まったわ、…ジェンの“萌えバナ”」
「当たり前よ!可愛いものは素直に愛でなきゃ」
と付け加えては頬にキスを落とす彼女は多分、チーフから“萌え”を教わったのだろう。
「…本当にビックリしたんだからね」
「嬉しい賛辞よ、ソレ。第1段階クリアね、ジェン」
「フフッ、私とリヒトのアカデミー賞級の演技のお陰かしら」
「やだ、“ブランジェリーナ”を語るのは図々しいわよ」
(※ハリウッドスターのブラピ&アンジーを総称した造語)
今までが演技だったのかは疑わしいけれど、修平を欺くのはさすがに上手かったと思う。
「もちろんよ。リヒトはブラピじゃなくて、ケン・ワタナベでしょ?」
「それこそ失礼よ、ねえマホ?」
「…ねえ2人とも。これはドチラに転ぶべき?」
「「もちろん私よ!」」
結局は息ぴったりな2人と分かった所で、“ちょっと来て”と2人に手を引かれて行く。