フラストレーションが高まるより早く、グッと近づいた修平との距離に気を取られた私。
必然と視線は上方へ向いて、ダークグレイの眼差しから逸らせなくなるから負けた気分。
「それなら真帆ちゃん。あのソフィアに嫉妬するわけ?」
フッと頬を緩めながら頬にキスを落とされた挙句、首を傾げた彼から尋ねられる羽目に。
「そふぃ、…え、と――ソフィアさん?えええ!――あ、笑い堪えないでよ!」
「ハハッ!お袋に嫉妬するとは、…真帆ちゃんも忙しいね」
腕の力をフッと緩めてくれたと同時、珍しいほどに大笑いされて頬を膨らませてしまう。
「もうっ、修平ひどい…!」
「ハハッ、ごめんごめん――多分だけど。真帆がそう言うなら、お袋の躾の賜物だよ。
“女性はいつもスイートな言葉を待ってるの――ねえアナタ、今日はどうかしら…?”
――とか言って、お袋から寡黙な父さんに迫る傍らで育ったせいじゃないかな?
もちろん今までこんな事をしてるのは、真帆ちゃんが生まれて初めてだし最後だよ」
「…本当に?」
修平のお母さまである、ソフィアさんはアメリカ人。若々しい外見と性格で大好きな方。
確かに彼の実家へ初めてご挨拶に伺った時、…私の扱いが下手だと修平を注意したかも?
「弟の方が奔放的な性格してるだろ?アッチがお袋似で、俺は昔から父さん似の性格だって言われてたよ。
そもそも女性の扱いに慣れていたら、…真帆ちゃんを出会ってすぐに手に入れるよ。…なんせ部下に躊躇して、手を拱(こまね)いていた男なんでね」
「…そ、それなら、許す」
「それは光栄です」
かすかに肩を震わせながらまだ笑っている彼のその表情から、それが真実と受け入れた。
嘘を吐く人じゃないと信じているし、私にしても彼にしても過去があって今があるから。
地上へ到着したエレベーターを降りると、エントランス付近でひらひら手を振る人物が。
すると傍らで佇む綺麗な女性とともにこちらへ近づいて来て、そのまま対峙することに。
「時間ぴったり――真帆ちゃん綺麗だねぇ」
「あ、ありがとうございます…」
「シュウ!会いたかったわー!」
大神チーフにお礼を告げる傍らで、修平へとダイブするように盛大なハグをかわす女性。
「はいはい、ジェン久しぶり――2人とも何でホテルまで?」
此処が待ち合わせではない為、予期せぬ出迎えにハグを終えた修平も困惑の色を見せる。

