ふわり、と鼻腔を掠めゆく爽やかな香りが、彼の傍に居ることの安堵感まで連れて来て。
別階から動き出したエレベーターを待つ間、改めてダークグレイの瞳が私に向けられた。
「よく似合ってるよ。…キスしても良い?」
「平然と言わないでよ。…今はダメ」
「フッ、せっかく塗ったリップが取れるもん――だろ?」
「また人のセリフをー」
「真帆バカだから仕方ない」
そう言い笑う彼からは、どこであっても“可愛い”や“綺麗”の言葉が舞い降りて来る。
こういう特別な時だけでなく、ふとした瞬間にも高揚する言葉をサラッと頂けたりして。
それでまた褒められるように頑張ろう、という感情こそが美容には効果絶大だと思うの。
よく彼が髪型の変化に気づかないとか、可愛いスタイルをしても褒めてくれないだとか。
友人からもよく不満を耳にしていたし、実際に私が付き合った人でも経験しているから。
「ねえ修平、」
「ん?」
「…すっごく、今さらだけど――修平、褒めるの上手だよね?」
だからこそ、彼のフェミニストぶりは以前からのモノと容易に答えへ辿り着いてしまう。
というよりは、以前から聞きたくて仕方なかった疑問を、それとなく尋ねてみることに。
「どうして?」
「んー、…ふと嫉妬したり?」
「――ハハッ!」
到着音とともに停止したエレベーターへ乗り込みながら、笑顔でサラリ返されてしまう。
「なっ、何で笑うのよ!?」
「そんな必要ゼロだから」
なおもクスクス笑っている彼を咎めると、腰元へ回されていた腕の力がグッと強まった。

