アップにするよりもゆる巻きを施しておろしていた方が、その良さが際立つと思ったの。
何より、仕事中は邪魔だからとアップヘアばかりの為、特別な時は違う印象を与えたい。
毛先をほどよく巻き終えて、仕上げにワックスを馴染ませる。これでヘアはもう完成だ。
愛用パフュームをお腹あたりに吹きつけた後、ドレッサーからそのドレスを取って着る。
そしてメイク仕上げに、コンシーラーとして愛用中のラディを唇の山へ少し馴染ませた。
ラディによって唇はふっくら見え、最後につけるリキッドグロスの発色は段違いになる。
その後は順にアクセサリー、黒パンプス、持参したバーバリーのバッグを持てば完成だ。
全身鏡でくるりとターンをして確認した時、部屋のチャイムが鳴り響いてドアへ向かう。
修平が来ると言った時間通りだった為、ドアスコープも覗かずに重厚な扉をすぐに開く。
その先に迎えに来てくれた彼の姿を捉え、思わず破顔してしまうのは秘密事項だけれど。
「今、確認した?」
「あ、…分かった?」
“真帆、頼むよ…”と脱力した修平に、一度確認しろと言われて苦笑を浮かべてしまう。
修平は心配症の節がある、…というより過保護な気もするけれど。ここは日本ではない。
もちろんロンドンで生活していたから、異国の地で生活する際は安全確認が求められた。
とは言っても、周囲から指摘されるほど、危険に対してはなぜか勘が奮わないのが難点。
瑞穂には“男よりも生活面が心配”とか、松岡さんには“詐欺に引っ掛かり易い”とか。
いつでも軽く受け流していたけれど、これからはなおさらひとりの命ではないと感じて。
俄かに反省しつつ“行こうよ”と彼の腕を取ると、オートロックのドアが静かに閉じた。
「綺麗すぎて、…余計に心配で堪らないのに」
「もー、また言う!」
平日ともあって静かなフロアを2人で歩き進んで行く途中、また修平の優しさに触れる。

