どんなに些細なことでも。彼と一緒だから楽しくて、彼が笑ってくれるから嬉しくなる。
身構えれば難しく感じる恋愛も、目の前の相手を思いやる心を忘れず素直にいれば良い。
もちろん彼と付き合い始めてから、勘違いによるすれ違いやケンカをしたこともあった。
だけれどそこからまた互いを知り、歩み寄って受け入れることで距離が縮むと学べたね。
豆を挽き終えたと言われて席を立った私たち。お店の入り口を指すダンに従って進んだ。
「ほら、ちょっと重いぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ダンから修平へと手渡されたショップ袋からは、ほんのりコーヒーの香りが漂ってきた。
「そりゃあこっちのセリフだ」
ほぼ同時に彼とお礼を言ったところ、目尻に皺を寄せて豪快に笑ったダンの顔は優しい。
「ううん、コーヒーだけじゃなくてね。
私が知らないコッチでの彼の生活とか、ダンが知ってることを教えてくれたから」
「当たり前だろ?息子と同然なヤツの嫁さんなんだ。…安心したよ、マホと会えて」
「ダン…、ありがとう」
その言葉から理解出来たこと。それは2人が互いに気を許した存在であったということ。
エリートと評されてがむしゃらに働く修平の本質を知るからこそ、心配してくれたのだ。
「それにマホ。ここに連絡くれれば、海外行ってる時以外はすぐ送るぞ?」
「ホントに!?」
「ああ、もちろんだよ!
誰かさんは住所も教えないで帰りるし、なぜかリヒトも教えてくれなくてなぁ」
ダンが加えて“そうだったよな?”とジロリと横目で捉えたのは、もちろん修平のこと。
するとクスクス笑った修平に、不意に肩を引き寄せられた。驚きながら彼を見上げた私。
「――此処へ次に来る時は、マホを連れて来たかったからだよ」
ダンの冷やかしにも平然とする彼がこちらへ向くから、頬がカッと熱くなるのを感じた。

