ぎゃーぎゃー騒がしい声が静まったと思えば、“じゃあ気をつけてね”と通話が終わる。
すぐ無機質な機械音へと切り替わったため、終話ボタンを押してから修平へ携帯を返す。
受け取った彼はそれをスーツの内ポケットへしまうと、ダンに豆を挽くようお願いした。
するとダンが“もう少し掛かるから、これでも飲んでろ”と、淹れたての1杯をくれる。
新たなカップは試飲用なのか、とても小振りで大きな修平にはどこか不似合いに映って。
コーヒーの芳醇な香りを楽しみつつも、そのアンバランスさに思わず笑ってしまった私。
“笑うな”と言って悔しがるところがさらに可愛く見えて、笑いが新たな笑いを生んだ。
「多分、絵美さんは今ごろ餌食かな」
会話が届いていなかった筈なのに、そう踏んでいる彼はやはり2人との付き合いが長い。
「私、…松岡さんの正体が未だに見えない」
よくマイペースと言われるけれど、本当の意味でのマイペースとは松岡さんだと思った。
「ハハ、絵美さんも昔よく言ってた。
ついでに“話も望みも聞いてるようで全然聞かない捻くれ者”ってね」
「うん、絵美さん強いのにねぇ。あんな風に出来るの、松岡さんだけだし」
元ヤンにして秘書課の有能美人なルック・キラーは、時として上司の修平さえ丸め込む。
“頭じゃ勝てないから相手のイタイ所を突くの。あとはこの手腕?”なんて言う彼女だ。
「まあ、だから2人の結びつきも固いのかな。それこそワイヤーみたいにね」
細くて強靭なワイヤーに例えた彼。それがまた2人の関係にはピッタリで思わず笑った。
「やだ修平、ワイヤーみたいって…でもピッタリ、ほら」
「――キラーな2人だし?」
「あー、私のセリフ!」
「真帆ちゃんが出遅れたせい」
ムムッと頬を膨らませると、いつものように彼の人差し指が頬に触れて、くすぐったい。
チラリと視線を向ければダークグレイの瞳と重なり、もー…と言いながら許してしまう。

