確かに電話越しにギャーギャーと騒がしい声が届き、絵美さんが見えるのは確かなよう。
“代わりなさいよ!”“おっと”等と掛け合いをし出したあたり、自宅に滞在中らしい。
「なに、お姉さまはそんなに妹に営みの声でも聞かせたいの?
あ、その顔見てるとヌけそ、」
“黙れや変人!”
「真帆ちゃん、何ならスカイプかフェイスタイムに切り替えて見たい?」
「――今すぐ電源OFFで。…あ、やっぱり松岡さんだけブロックしますね」
「あーあ、お姉さま拒否られちゃった」
“あたしは拒否られてないっての!”
「イヤよイヤよも好きのうちだもん」
“いっぺん地獄に行って来いや!”
小さなバトルに終止符を打とうとしない人物は、存在自体が18禁な気もするけれどね。
さらに絵美さんの口調がどんどん鋭さを帯びているあたり、“元ヤン”説は本当らしい。
いつもの流れで溜め息を小さく吐き出せば、傍らで笑っている修平へと視線を移した私。
大学時代から変わらない2人だから、OFF限りの優しい表情を引き出せるのだろう…。
「ところで妹ちゃん。頼りがいあるお兄さまに何のお願い?」
“うざ…!真帆ちゃんもう切っていいわよ”
「…絵美さーん、それだと用件言えない、」
これではどちらと会話しているのか分からないうえ、電話を終えれば本末転倒もいい所。
“あ、それもそうだ。ちょっとウザ男、携帯!”
「えーやだ。ウザ男はアッチの大神さんだしぃ、ねえ妹ちゃん?」
“アンタも大概、図々しいわ!”
「えー、それお姉さまが言っちゃう?」
「・・・、」
絵美さんの過去の片鱗さえ軽くかわすスマイルキラーさんに、そろそろ頭痛がし始めた。
すると肩を叩かれてそちらを見れば、修平は苦笑しつつ私が持っていた携帯を手にする。

