日本で当たり前のサイフォン式も、エスプレッソが主流な此方では珍しいのだと知った。
その通称バキューム・コーヒーメーカーが出す味わいに、彼とチーフは惚れたのだとか。
ちなみに自宅ではドリップ式だけれど、真空を利用した機械を通過するその味は格別だ。
その熱々を1口、2口傾けては、“美味しい”と連呼する私を当然2人が笑ったけれど。
キレのある味とかコクが深いだとか、素人の私ではそんな表現を使うのはおこがましい。
とにかく香りが豊かで優しくて、コーヒー自体に甘さを感じる。まさに魅了される味だ。
「シュウ、どれくらい欲しい?」
「んー、…真帆ちゃんのご要望は?」
3人で会話しつつ、あっという間にTallサイズほどあるカップを飲み干してしまった。
そこで日本へ持ち帰る焙煎後の豆を、どれくらい欲しいか彼に尋ねられて思案する私。
「えーと、…自宅用と瑞穂にも少しと…、あ!松岡さんと絵美さんの分も。
でも、松岡さんのお家にコーヒーミルあるかな?挽いて貰った方が…、」
「それなら、聞いたらどう?」
「ええ、本当に電話したの!?」
クスクス笑いながら自分の携帯を差し出した彼。それを受け取った私は耳元へ近づけた。
「――はいはい修ちゃん、如何しました?」
「…すみません吉川です。お、」
「んー残念。ここは“可愛い妹のラブコールですよ”って言わないとー」
「…松岡さん。とりあえず、辺りに誰もいないことを祈りますね」
「お兄ちゃんだもん、ソレはもちろん抜かり無いよ?――気にしないけど。
隣にお姉さまがいるけどぉ――あ、18禁じゃないから無問題ね?」
冒頭で“お疲れ様です”を言わず仕舞いだけれど、マイペースな人物は気にも留めない。
それどころか国際電話を通してまで、彼がニヤリと口角を上げている姿さえ目に浮かぶ。

