この店でよく大神と買い物したとか、ここの日本食レストランは寿司ロールが美味とか。
シカゴでの生活を懐かしむように教えてくれる姿に、不安は安堵に塗り替えられていた。
そうして歩いた時。大通りを抜けて路地へ入ったところで、小さな一軒の店に辿りつく。
「ここって…、もしかして」
「あれ、もしかして聞いた?」
「うん、来てみたかったんだ」
すっかり高揚した私にひとつ頷くと、趣ある店のドアを開けてエスコートしてくれた彼。
ウッド調のドアがカランカランと鈍いドアベル音を鳴らし、小さなそのお店へ一歩進む。
その瞬間から芳醇な香りに包まれ、大好きな匂いがホッと心を落ち着けてくれるようだ。
「いらっしゃい、って…おい、シュウじゃないか!」
すると店主と思しき恰幅良いの男性が素っ頓狂な声を上げ、カウンター隅を抜けて来る。
「Dan(ダン)、久しぶり」
ビジネスバッグと私のショップ袋を椅子へ置いた修平は、笑顔でその男性とハグをした。
明らかにそれは普段見受ける類ではなく、修平が本当に親しい人と行うハグと分かった。
「元気そうで何よりだ」
「それはダンに言いたいんだけど」
「まったく…、リィは“ちょっとは痩せたら”って言いやがるし」
「それは同意する」
「シュウまで言うか?」
「健康一番だからね」
ハグを終えて言い合う2人の姿から、彼が随分な常連だったことを知れて嬉しくなった。
たまらず頬を緩めていれば、ふと此方へその眼が向けられて思わずビクリと肩を揺らす。

