スマイルキラーの下で働いていれば、その心配りに気づかない方がオカシイと思うほど。
自身の業務はさらりとこなしつつ、状況変化をイチ早く察する観察力に長けているから。
部下との些細なコミュニケーションを大切にする彼は、慕われているのだと納得するの。
これは訓練や経験が物を言うわけでない。修平と同様に、生まれ持ったモノだろうな…。
「妹のお望みを叶えるのは、兄の務めだしねぇ」
「もー…、話が進みません」
「だって真帆ちゃんの声、もっと聞きた」
「――実はですね、私がそちらから持参した資料で…」
「あ、兄の愛情スルーした」
まるで日本に居るかのような会話で、すっかり肩の力が抜けてクスクスと笑っていれば。
「マホ、ちょっと代わって」
「え?」
「――It's been a long time.(久しぶりですね)」
不機嫌な声色を響かせ、左方から伸びて来たジョシュアの大きな手で受話器を奪われた。
形式的な挨拶ことばを告げたものの、明らかにその声はミーティング時と同じに受けて。
コチラの方が訝しげなジョシュアの表情でハラハラするけれど、ただ聞くことに徹した。
シカゴにある会社の最短調達方法を尋ねているが、相も変わらず無礼な態度はそのまま。
松岡さんは語学堪能であるため、賢者な2人の会話はすらすらとムダなく進むから凄い。
これは電話越しであろうが、瞬時に問題を理解できるスマイルキラーの力ゆえだろう…。
「Nothing to worry about here.(ご心配なく)」
メモを控えて要件が済んだのか、ジョシュアはこちらを一瞥して電話を終えてしまった。