ニヤリとどこか勝算の笑みを見せ、颯爽と部屋をあとにしたチーフに溜め息を吐いた私。
仕事は様々な人の力があってこそ成り立つと、様々な場面で感じ取って来たのだけれど。
それは自身で会得していくモノであり、まして簡単に口頭で教えられるモノでは無い。
彼のような上司の元で学ぶ事が一番だというのに…、そのチーフが振って来るとは困る。
――というか、肝心なことを教えてくれなかったチーフ。ソレもまた腑に落ちずにいて。
思案に明け暮れるほど時間は与えられず、かと言ってサラリと解決出来る問題ではない。
物はいつか形になるけれど、人の心理が変わる確証は持てないから、本当に難題だわ…。
「マーホ!」
どうしようか、と頭を悩ませながら部署へ歩いて向かっていれば、背後で響いたアノ声。
やはり身構えたのも束の間、“会えばハグ”が正当と言わんばかりにすり寄って来る男。
「っ、ちょ…、」
「どこ行ってたの?」
「お呼ばれよ」
ツンと素っ気ない態度を取りたくなくても、過剰なスキンシップにはウンザリしている。
早く離れてくれないかと思いながら、淡々と答えて“イヤイヤ”モードを露わにした私。
「ふーん…もしかして、リヒトからお説教受けてたの?
キスマークつけて仕事に来るなとか」
「っ、違うわよ!だいたい、貴方が…」
「――吉川さん、どうした?」
「っ・・・」
ジョシュアの勝手な発言に声を荒げたところ、さらなる驚きの声がすぐ背後で響いた…。

