コクリと私がひとつ頷いたのを見て取ると、“ついて来て”と促して歩き始めるから。
会話ないまま誘われてある研究室へと入れば、何故かコーヒーを淹れてくれたチーフ。
「ん?コーヒー苦手?」
「いえ、大好きです。ありがとうございます」
ムダな時間を嫌う彼の気遣いに眼を見張りながら、レディファースト気質だと納得した。
流石に差し出されたカップに驚いたとは言えず、それを有り難く受け取って口にすれば。
「どう?」
「…美味しい、です」
熱々のコーヒーが喉を潤したのと同時に、あまりの美味しさで本心が漏れてしまった。
味が分かる訳ではないけれど、嫌味のないマイルドな苦みとコクのバランスが好みだ。
修平と2年前に名古屋に行った時、途中立ち寄った喫茶店でコーヒーに目覚めてからは。
エスプレッソよりもアメリカン派で、ほんのりと甘いブルー・マウンテンは特に大好き。
今も変わらずにソレをお取り寄せしているほど、私なりにコーヒーへの拘りがあって。
彼とお家で飲む他にも、松岡さんとのコーヒータイムに使う事もあるほど飲み飽きない。
寂しかったり辛い時にソレを飲んで、修平の帰りを待っていた思い出が懐かしくて――
「やっぱり似た者同士だね――修ちゃんも好きだよ、これ。
コッチに居た時の修ちゃんさ、煮詰まるとよくコレ飲んでたからお気に入りだしね。
街中にある小さな店なんだけど、生豆からやってるから抜群にウマいの。
あとで教えてあげるから、良ければ買って行くといいよ」
「あ…、ありがとうございます」
「どういたしましてー」
南国ムードな顔で軽快に笑うチーフの本心が読めないから、居心地が良いとは言えない。

