早朝に見送った通り、シックなスーツが填まる彼にドキリと高ぶるのはムリも無い。
だけれど彼ひとりではなく、コチラで彼をサポート管理してくれる秘書と一緒だった。
昨日紹介を受けていた、彼女は私たちと同じく結婚を控えているAlice(アリス)。
ブロンドの髪をアップに纏めた長身ながら、その外見とは裏腹にとてもサバけた女性だ。
勿論私たちの中を知っているから、ニコニコと笑って場に留まってくれているけれど。
「…どうかしたか?」
「も、申し訳ございません…え、と…大丈夫ですよ」
彼に会えた事で顔が綻ぶよりも先ず、仕事中に浮かべる愛想笑いのみに留めてしまう。
続いて何か話さなければ不自然というのに、ジョシュアの件で疲弊していたのだろう。
いつの日か彼がセクシーだと言ってくれたリップも、塗り直したばかりで効果は薄いし。
大好きな彼のダークグレイの瞳でさえ直視出来ずにいるほど、後ろめたいというの…?
「シュウ…、そろそろお時間が」
申し訳なさそうな表情で話に割り入ったアリスは、押し迫る時間を告げると彼を促した。
「ああ、そうだったな――じゃあ、あとで」
「かしこまりました…、失礼します」
その探るような眼差しから抜け出せた事に安堵しつつも、仕事こそが本来の目的である。
何より、多忙な彼に心配要素を増やす方がバカげているもの。ほら、また笑わなきゃ――
ニコリと笑ってくれた修平と秘書さんに一礼すると、目の前のドアノブへ手を掛けた。

