エリートな貴方との軌跡



ソレなのに。“見た目以上にキュートだ”なんて、意味不明な発言をするものだから。



静かに走行するハイブリット車のプリウスは、イライラを押し殺す私には好都合だった。



彼の甘ったるいバニラの香りも受けつけないまま、ようやく試作部の建物が見えて来た。



しかしながら、ホッとひとつ溜め息を吐いたのは、静かな車内で不都合となってしまう。



「明日も送ってあげるから」


しまったとチラリ視線を送れば案の定、ジョシュアはニッコリと口元を緩めて言った。



「明日は遅れないように早く行くので結構です。

今日は助かりました。本当にありがとうございました」


上から目線も気に入らないけれど、何よりも彼に“借り”を作るみたいで嫌だもの。


「ククッ、マホは女優に不向きかも」


「そうですね」


「キュートなのに残念だ」


ツンとそっぽを向いていれば、相も変わらずククッと楽しそうに笑うから失礼すぎる。



それから無言を貫いていると到着し、シートベルトを外しドアへ手を掛けたところで。



「ストップ!」


「・・・えっ」


動きを制限する大きな声に驚いた刹那、頬にリップ音とともに温かい感触を感じた。



あまりの速さというか芸当に、唇を寄せられてしまった頬に手を当てて睨みつける私。



「お礼くらい貰うよ。本当はリップが良いけど」


「な…っ、最低…!」


「だって、本気になったし――マホが欲しい」


軽い発言に対し手を振りかざそうとすれば、その青い眼の色を変えて言うから怖い…。