混雑する地下鉄の乗り方をどうにか覚えた私は、目的地をただ淡々と目指していた。
けれども、隣から甘撫で声を響かせて話しかけて来る男だけは、どうにも慣れなくて。
昨日ほどは驚かないものの、やはりスケールの大きい本社へと無視を決め込んで到着。
気後れしそうになるのは緊張からだと言い聞かせ、ひとつ首を縦に振って呼吸を整える。
出張初日に立ち寄った本社ビルをスルーし、そのままループバスに乗り込もうとすれば。
「マホ、そんなの乗らなくって良いよ」
「…どうして?」
「俺のに乗れば良いじゃん」
そう私の肩を掴んで制すと、もう片方の親指を立てて後方をクイッと差したジョシュア。
「この車で行けば良いの。どう?」
振り返って目が合った彼が示すモノとは、なんと大神チーフと同じプリウス車だった。
私の肩に置いていた手をサッと腕へと滑らせれば、ジョシュアは容易く引っ張るけれど。
「…良いわよ、ループバスで」
そうはいくか、とフルフルと頭を振ってノーを表現するのは、当たり前のことだろう。
「でもココから15分は掛かるし、オマケに降車駅はラストだけど良いの?
ていうか、さっきのループバスじゃないと遅刻のリスクも出てくるけど」
だけれど、彼にとっては痛くも痒くもないらしく、矢継ぎ早に私を責め立てて来る。
修平のアシスタントとして同行したというのに、遅刻というフレーズはもっての外だ。
ここで助手席のドアをガチャッと開けられてしまえば、足が前へ進むのもムリは無い。
ディープ・ブルーの眼差しでニッコリ笑う彼のペースに、またしても狂わされるとは…。

