心を律するのも、負けん気を生み出せるのも、最後は自分自身にかかっているから。
年齢を重ねるごとに高さの増すヒールと逆行して、ずっと初心のままでいたい…。
「ほらほら、出発するよー」
本社ビルに併設している試作部へ向かう為、大神さんの案内に従って車に乗り込んだ。
近代的な本社ビル周辺を囲うように、広大な敷地に作られた工場一帯が本社だそうで。
その敷地内を端から端まで移動するには、歩けば1時間以上掛かってしまうらしい。
「こちらって、プリウスですよね…?」
「そうそう。アメ車は燃費悪いし、社用車には向かないってウルサイの。
俺はゴツくて主張たっぷりなベントレー・ラブなのにさー」
「アハハ…、支社の社有車も大半がプリウスですよ」
「まー、コレも確かに静かで良いんだけど。
近いウチに、社内移動は電気タイプへ変わるだろうねぇ」
そう笑った彼は、敷地内移動専用の社用車というお馴染みのプリウスを始動させた。
周りがループバスやワゴンに乗り込んでいる中を、スーッと横切って行くあたり。
どうやら本社でも随一とされるエリートの彼には、専用車が提供されているようだ。
「ブラックボックスって、結局は誰でも扱える箱ばかりでしょ?
外部や取引先へのセールスも兼ねて、こういう本社ビルから近い所で操業してんの」
敷地内の信号を順守して停止すると、常に稼働している工場を簡単に説明してくれた。
彼の言うブラックボックスとは、内部の構造が分からずとも扱える機械を差している。
「理に適っていますね…」
「そりゃあ“Time is money”がモットーだしね」
大きさに圧倒されつつ感嘆の声を漏らせば、ニヤリと不敵な笑みを浮かべられた…。

