その電車に揺られながら目的地へと近づくごとに、何故かしら緊張が襲っていく…。
自身の働く支社は日本国内では本社であり、本当の本社はひどく遠い存在だったから。
だけれど同時に修平が働いていたシカゴに来ている事に、嬉しさも込み上げていて。
これほどまでに妙な感情が入り混じる出張など、未だかつて無かったなと思わされた。
「真帆ちゃん、ココだよ」
「お、大きいですね…!」
「ハハ、支社と比べるとね」
大神さんの手招きに唖然としていれば、そんな私に優しい眼差しを向けてくれる修平。
何時も変わらないダークグレイの瞳を捉えるだけで、ホッと心が和んでしまうけれど。
大勢の人が行き交う社屋へと一歩入れば、途轍もない緊張感に見舞われていく…。
「――黒岩、直行だろ?」
「あー、一先ずCEOへ挨拶は…」
先ほどと声色と呼び方がガラリと変わった大神さんに、修平の顔も一気に引き締まる。
私は修平の補佐としての出張だけれど、彼は支社の役員である事を忘れてならない。
「それなら、真帆ちゃん連れて行くぞ」
「ああ分かった、よろしく頼む」
そう言って立ち去った修平が進んだ先には、深々と一礼して待ち構える女性の姿。
どうやら卒の無い立ち振る舞いからして、CEOの秘書さんが出迎えたのだろう…。
「さて、俺らも行きますか」
「はい、お願いいたします」
苦手意識の強い眼差しでも、此処からは真剣勝負の世界。泣き言なんて言わない。

