とはいえ直後に唖然としていたのは、その先で笑う姿に驚かされたせいだろう。



もう間近に迫った本社行きの為、ギュッと濃縮された過密スケジュールをこなす日々。



同じ会社で働く立場として、その大変さを少なからず理解していたつもりだから…。



「ただいま」


「お、お帰りなさい…どうして?」


「秘書課・リーダーさんの計らいで」


「えっ、絵美さんの…?」


「“真帆ちゃんだけに負担掛けるな”って、スケジュール変更入ってね」


あまりの早い帰宅時間に不安に窺う私を、フッと笑った彼がドアを閉めるから。



「真帆?」


「お願い…、ちょっとだけ」


爽やかな香りと体温を求めるように、キュッとスーツを掴んで寄り掛かった私。



彼の厚い胸へと顔を埋めていれば、そのままギュッと逞しい腕が伸びて来たから。



ずっと抱き締めて貰いたかった腕の中に収まるだけで、ホッと心が和んでいく。



役職に付加される責任を果たす立場にあって、仕事の失敗で弱音は吐きたくない。



まして彼は億尾にも出さないけれど、私なんかより激務と苦労を重ねているから…。



「…ありがと、すぐご飯にするね」


笑いながらそっと眼前の胸を押せば、ゆっくり開いた一定の距離間がまた心地良くて。



「もう?“真帆チャージ”足りないんだけど?」


ダークグレイの瞳で扇情的に見つめられると、ソレだけで幸せが満ちるから不思議だ。



そうだよね…ほんの僅かだとしても、私の出来る精一杯で仕事も私生活も支えたい…。