過去は振り返るモノだけれど、遅い後悔だけに駆られていては何も始まらないから。
今日の再会をバネにして、私ももっと修平の毎日を幸せに出来る人になりたいな…。
試作部が誇るセキュリティを潜り抜ければ、戦場と思しき部署の光景が広がって。
自席へと戻る前に、何故かニヤニヤしているスマイルキラーのデスク前で足を止めた。
「すみません、只今戻りました」
「おー…お帰り。“密会”は楽しんで来た?」
「もー人聞き悪いです…、仕事ですよ?」
松岡さんも面識のある剛史だから、かっこうのネタになるとは想像していたけれど。
「まぁ…、“どこぞの方”の耳に入ればジェラッちゃうしね?」
「…岩田くんは開発室ですか?」
実に愉快そうな彼の言葉をスルーし、敢えてバッサリと話題を変えて尋ねた私に。
「あー岩田の件なら、俺が段取りしといたから無問題(モウマンタイ)。
今回のバリ発生と寸法違いに然り…、プリンス本人が問題とぶつかんないと駄目だろ?
失敗によって迷惑を掛ける事の重大さを、アイツはもう少し理解すべきだ――」
「…そうですね、ありがとうございます」
部署内でのミスならば取り繕いやカバーは可能だけれど、相手が居るとなれば話は別。
今回の不具合発生によって依頼品の完成が遅延するうえ、対策書等の手間が発生する。
そして何より、目には見えない双方の信頼関係にも隔たりを生みかねないからだ。
先ほどまでの飄々とした態度から、ガラリと上司の顔に変化した彼の意見は尤もで。
「…そんな訳で、真帆ちゃんは準備だけに集中してて?」
普段は温厚なスマイルキラーだからこそ、時折見せるエリートさには感服の一言だね。

