エリートな貴方との軌跡



否応無しで仕事に集中してしまえば、誰しもソレ以外の事には疎かになりがちだ。



先ほどまでサンプル品の不良具合を確認して、その一点に視線を注いでいたもの。



特に私は修平や松岡さんから謗られる、“注意散漫”な事が多々あるようだし…。



「…気づかなかった」


「ハハッ、やっぱり真帆だ」


此方から話を振ったというのに、本当は気づくまで待ち構えていただけの有り様で。



ようやくソレが分かった瞬間、楽しそうに私を窺って来るから頬も膨らんでしまう。



「剛史こそ変わらないね?」


「ん?真帆にフラレて相当ブレイクハートしたけどなー。

そのお陰で、今は俺も負けないぐらいに幸せだから」


「…うん、本当におめでとう!」


彼の左薬指にキラリと輝くリングが、幸せ度合を表して見えるから不思議なモノ。



「サンキュ!来年には子供も産まれるし、色々大変だ」


「わっ、羨ましい…!それを言うなら、嬉しい悲鳴でしょ?」


「ハハッ、そうとも言う」


本来なら此処で謝り倒す程、過去の贖い(あがない)をすべき立場だと思うけれど。



幸せそうに笑う剛史を“今”支える方に失礼だもの…、だから笑顔で祝福させて…?



「仕事も程々にして、相手のコトも大事にしろよ?」


「ありがとう」


数年前の仕事以来となる元彼との再会は、私が思う様々な迷いを払拭してくれた。



きっと何時かまた会う日にも、お互いが幸せでいられるようにと願うばかりだね…。