エリートな貴方との軌跡



こちらの不安を煽るだけあおって、飄々と楽しまれてはなす術も無いもの…。



そんな考えすらお見通しの松岡さんは、フッと一笑してから頬杖をついて話し始めた。



「んー…“実力成果主義”の本場を体感するのも良い経験だと思うよ、俺はね――

因みに今回の案件って、黒岩さんが向こうで担当してた物の改良版の依頼でさ。

設計と製作も向こうでする予定だけど、黒岩さんのサポート役だから安心して良いし。

お姉さま曰く“ウザ男”さんに直接会えば、色々と吸収する事もあるからね。

百聞は一見にしかず…もとい、“本社の内情は一見にしかず”的に行って来てよ?」


気だるい表情で締め括ると、頷かないでいる私に“ね?”と言って宥めて来るから。



「…しっかり頑張って来ます。ありがとうございます」


「ん…、それでこそ真帆ちゃん!

図面やアッチから届いた過去のサンプル品は、一纏めにしてあとで渡すから。

そうそう、出張までの間は“トラブル・プリンス”のサポートに回ってやって?」


ようやく首を縦に振って笑顔を返せば、とびきりのスマイルキラーを炸裂させた彼。


「ふふっ、かしこまりました!」


修平が行って来た“Self―reliance”の精神を、しっかりと受け継いでいて。



何時でも部下や後輩のピンチを察してくれるからこそ、皆に慕われるのよね・・・



空になったマグカップを手に立ち上がると、こちらへ歩み寄って来た松岡さん。



この含み笑いをする時は、大概に途轍もない爆弾を投下する合図だと踏めば…。



「まぁ、修ちゃんがかなり浮かれちゃってる筈だしー。

今回の案件のサブタイトルには、“上司とアバンチュールな出張ライフ”とか…?」


「は、はぁああ!?

せっかく松岡さんが格好良く見えたのに、今のがすべてぶち壊しました!」


その発言に頬を膨らませる私の髪を撫でつつ、怒りを焼失させてしまうから困りもの。



「えー、フィーリングって大事でしょ?」


この巧みな使い分けに、老若男女問わず絆されてしまうから恐ろしいけれどね――…