こう思うのは何度目かも分からないほど、松岡さんには翻弄させられているけれど。
先輩として厳しい部分も、こうして砕けた不思議な人格も、本当は好きだったりね…?
「真帆ちゃん、何ニヤついてんの?」
「ち、違いますよ!私、怒ってますもん」
「あー、今回は“寸止め”されたオチか…」
「…これから人事部行きません?」
「おっ、自ら出頭するんだ?」
「・・・・・」
終わりの見えない会話を繰り広げながら、ガヤガヤと煩い試作部内へと戻った私たち。
彼のあとをついて行けば、部内の喧騒を遮断するミーティングルームへと入室する。
私が静かな音を立ててドアを閉めれば、その間に席へ着いていた早業の松岡さんは。
「ヤバい、コーヒー枯渇病かも…。
本社の件の話がてら、“Have a break ”しない?」
「言って下されば、先に淹れて来れたのに…」
すぐに某コマーシャルの名フレーズを悪用して、私にコーヒーを要求する周到さだ。
「んー、フィーリング?」
「もー意味不明です、…少しお待ち下さいね?」
せっかく上手くスルーしたとしても、さらに言葉を被せられては素直に動く外なく。
「さんきゅー」
「・・・行って来ます」
語尾を伸ばした口調の時は、大抵何かを潜めていると思案しつつ給湯室へ向かった…。

