コンパスの違う彼にすぐ追いつかれた私は、そのまま並んで試作部へと向かった。
初対面の時から意識はしていなかったけれど、やはり松岡さんの顔は整っている。
モデル体型で背の高い絵美さんと並んで、互いに引けを取らないから凄いよね…。
まったく以って今さらな感心をして横顔を眺めていれば、突然に振り向いた彼。
「あーあ、兄貴まで毒牙に掛けられそー」
「は・・・?」
意味不明だと言わんばかりに、気の抜けた返事をする私にニヤリとほくそ笑んで。
「これだと修ちゃんも骨抜きだ…、天然小悪魔さん」
「な…っ」
立ち止まったままの状態から耳元へと顔を寄せ、実に楽しそうに小声で囁いた。
甘いヒトトキ…、もとい修平が2人きりの時にだけ発する“隠語”だというのに。
どうしてこの人は、次から次へと色々な困惑を引き出してくれるのよ…?
「ん?仕入れルートは企業秘密でー」
金魚のように口をパクパクさせていれば、どうしてか彼にはバレてしまうらしい。
「そのうち、変態容疑で通報されますからね…!」
「えー、俺より先に真帆ちゃんの方が“エロオーラ散布容疑”で捕まるでしょ?」
「なっ、松岡さんが言いますか!?」
「まぁ、兄妹だから似た者同士って事ジャン」
“ドコを取っても本気で喰えないヤツ”と、不機嫌な絵美さんがよく口にするけれど。
ゴメンなさい…、掴み所の無い貴方のパートナーに勝てる人を見てみたいです・・・

