「あれ…?おっちゃんに呼ばれてきたのにチケットのことしか聞かれてないような…」
9月も末、少し肌寒く感じる夕方、俺達は俺とハラくん、後ろにカイジと鮎川という並びで、自転車を押しながら帰っていた。
「いや、もう3日前だしさ、こないだ聞くことは聞いたじゃん。出演料とか、対バンとのこととか、リハーサルとか。自分の機材合ったら使えるよーとか。」
ハラくんが俺を見てニッコリ。
なんだか安心するなその顔見てると。
「俺マイクとギターとシールドとちっこいアンプしか持ってねえもん」
「ギターとシールド持ってきてれば大丈夫だ。初ライブなんだし、リハでいろいろ教えてくれるって。例えば…MCとか」
「ぎゃあそれ言うなよ…」
「イヒヒ。MCは責任重大だもんな~噛むなよ。面白いこと言えよ」
「ちょっとハラくん~カイジがどSなんですけど~」
3人楽しく会話をしていたのに、鮎川1人だけ、なんだか浮かない顔をしていた。
「どうしたんだよ鮎川」
「実はさ、」
そう言うと、奴はその場にしゃがみこんだ。
何、何?!
「オレがボーカルだって、母親にはまだそう通してるんだ」



