「おおおはよう。」
「おはよう。」
「…?」
やべ、『おはよう』って今夕方なのに…!
「ユカちゃん。今回の初ライブでやろうと思ってる曲。歌詞だけでも読んで欲しいんです」
鮎川が三枚の紙をユカに渡した。
少し戸惑いながら、彼女はそれを受け取ると、真剣な表情でそれを読む。
「うん。詞はやっぱり経験したことが書かれてるこの失恋ソングが一番だけど、他のもライブで演奏しても他のバンドに劣らないと思うよ。ね、川口さん」
いつの間にか居た川口さん、いや、おっちゃんは、ユカの肩に顔をのせてずどんと歌詞を読んでいた。
「おっちゃん顔だけ浮いてて怖いぞ…」
のどが渇く。
声が出せないほどの緊張。
「…ま、いいんじゃない」
普通の答えだった。
「これは良いってことでいいんですよね?」
不安げに俺は聞いた。
鮎川もおっちゃんの顔を心配そうに覗いている。
「…そうだな、歌詞はいい。問題はどんなメロディなのかというところだ」
明日はここに来て演奏してくれ。
おっちゃんはそう言うとどこかへ消えた。



