君を愛す ただ君を……

越智君は、何の反応もせずにスタスタと校庭のほうに歩いて行ってしまった

いつものことだ

あの日以来、ずっと越智君は無言で何も言ってくれない

あたしは視線を下にすると、近くで名前を呼ばれた

顔を上げると、クラスメートのリンちゃんがフェンスにかぶりつくように張り付いて、あたしの名前を呼んでいた

「リンちゃん?」

あたしは小首を傾げると、リンちゃんの近くに寄った

リンちゃんは、あたしの前の席の子だ

しぃちゃんとの仲が壊れてから、一緒に話すことが多くなった

「今の越智君、格好いいねえ。無言なのに、陽菜ちゃんへの愛が感じられるよぉ」

がしっとフェンスを掴むと、鼻息を荒くしてリンちゃんが口を開いた

「どうしたの?」

「え? あ、とくに意味はないんだあ。帰り道に校庭があったぁ…みたいな」

リンちゃんが苦笑した

「だって、見えちゃったんだもん。越智君のさりげない愛情が! そしたら誰かに言いたくなっちゃうでしょー」

リンちゃんが腰をくねくねと動かしながら、楽しそうにしていた

リンちゃんの視線が、ふとあがると、目が細くなった

「ねえ、いいの? あれっ」

リンちゃんが、対向線上のフェンスの向こう側できゃっきゃと騒いでる女子を睨んだ

あたしは振り返って、リンちゃんが睨んでいる人たちを確認した

「だって、あたしはもう関係ないし」

あたしがにこっと笑うと、りんちゃんの目が真っ赤になって、鼻水が垂れた

「おっと。失礼」

リンちゃんが、ずずっと鼻をすすると、ポケットからティッシュを出して豪快に鼻を噛み始めた

年頃の女子の色気が一気に吹き飛ぶほどの豪快な鼻かみに、思わず誰もが振り返ってしまうくらい凄い音がした

まるで40代の疲れたオヤジを彷彿させるような鼻かみにあたしも目が丸くなった