越智家の朝は騒がしい

「ねえちゃん、俺の弁当はっ? 朝練に間に合わないよ! 早くしてくれよ」

「愛菜、俺の青いワイシャツはどこ? ネクタイはこれでいいかな?」

キッチンの横で、バタバタと男共が走り回っている

ママが死んでから、早5年

ママのいない生活に慣れたあたしたちは、毎日が騒がしく過ぎていく

「あれ? 靴下に穴があいてらっ。ねえちゃん、新しい靴下ってどこ? こんなんで学校にいけねえよ」

「俺もだ! 靴下がメッシュだ。恥ずかしいなあ。愛菜…靴下どこ?」

知らないわよ

いや…知ってるけど、それくらい自分で探しなさいよ

あたしはキッチンで、家族の朝食と弁当…そして夕食の下ごしらえをしながら心の中で呟いた

「ねえちゃん、遅刻しちゃうってば」

「愛菜…今夜は飲み会があるから」

「ねえちゃん、弁当は早弁用と昼食用の2つだよな?」

「愛菜…夜はアキさんが来てくれると思うけど、戸締りはきちんと…」

あたしは包丁を男共に向けると「ああ、もう! 煩い」と怒鳴った

「え? ねえちゃん?」

「愛菜。落ち着け。な…まずは包丁をまな板の上に置こうな」

「なんで昨日のうちにちゃんと用意しておかないのよ! パパ、飲み会も…なんで昨日の夜のうちに言わないのっ。今夜は彩樹に来てもらうから、いいよ」

あたしの言葉に、パパが眉間にしわを寄せると、ぶるぶると首を横に振った

「彩樹は駄目だっ。絶対に家にあげるな」

「嫌だよ。もう約束してるから」

「愛菜、それこそなんで昨日のうちに言わないんだ」

「言ったら、怒るから」

「怒るだろ!」

「あーもう煩いのよ」

あたしはパパに一つ、弟に二つ、弁当を投げた

「ほら、もうさっさと仕事と学校に行きなさいよ」

「愛菜、絶対に彩樹は駄目だっ」

そう大声で言いながら、パパが玄関に向かう

ネクタイを腕にかけ…靴を履き、鞄の持つと家を飛び出していく

弟も大きなスポーツバックを肩にかけると、パパを追いかけるように出発した