君を愛す ただ君を……

「あ、大空君…」

詩織が鞄の中から、名刺サイズのカードを一枚、俺に渡してきた

「これ、私のアドレス。携帯、変えちゃたから。良かったら、連絡頂戴」

詩織の細い指から、カードを受け取ると、俺は服のポケットに入れた

「わかった。連絡する」

「じゃあね!」

詩織が手をあげると、先に席についている友人たちのほうに走っていった

俺は「ふう」と息を吐き出していると、佐久間がコツンとつま先で俺の左ひざを刺激してきた

「いっ……何すんだよ」

「嘘ついちゃって。どこが全然平気なわけ? 膝が痛くて、練習をサボってくせに」

佐久間がむすっとした顔で、呟いた

「…いいんだよ」

「ふうん。やっぱ膝が痛くてサボってたんだ」

佐久間が不機嫌な顔で窓に顔を向けた

「何だよ…何、怒ってるんだよ」

「別に」

「どうしたら機嫌が直る?」

「馬鹿じゃないの?」

佐久間が思い切り俺の足を踏んだ

「…おぅ!」

俺はテーブルに額をつけると、瞼を閉じて痛みが引くのを待った

「私、佐山が膝に傷があるなんて、今日…初めて知ったんだけど」

「はあ? 俺、言ってねえもん。同じ高校だったライしか知らねえよ」

「え?」

「高校のヤツらなら知ってるけど、大学の連中には誰一人言ってねえよ。怪我のことなんて」

「どうして?」

佐久間が驚いた顔をした

「言ってどうするんだよ」

「だって…」

「ハンデがありますが…スタメンにしてくれます?…なんて言えるかよ」