階段を降りる足を止まると、越智君の走る姿にしばしの間、あたしは見とれた

長い手足が前後に動き、前へ前へと突き進んでいく

風を颯爽ときり、土を力強く蹴って、進んでいく勇ましい姿にあたしの目は奪われた

昨日、土まみれだったジャージはすっかり綺麗になっている

昨日洗って持ってきたのかな?

それとも代えのジャージを何着か持っているのだろうか

体育で使うし、洗い替え用に1つか2つくらい予備があるのかもしれない

あたしは体育をしないから…いつも見学だから、体育着は1着しか持ってないけれど…きっと健康な身体の人は何着か持ってるんだろうなあ

越智君の走る姿は、とても綺麗で輝いていた

走るのって気持ちがいいのだろうか?

越智君の顔、すごく澄んでいる

気持ち良さそう

走っている越智君の視線が、上に向いた

え?

あたしと目が合うと、越智君がにっこりと笑った

手を挙げて、軽く左右に振ると、校庭を離脱して体育館のほうに走ってきた

あたしは再び足を動かして、階段を下りた

あたしが階段を降り切るのと、越智君が体育館前に着くのが同時だった

ジャージの袖口で越智君は、顔の汗を拭くと、その場で足踏みをしてから、ゆっくりと足の動きを止めた

「越智君、なんで走ってるの?」

部活休むって、昼休みに大ちゃんのところに行ったんだよね?

越智君が、流れ落ちる汗を今度は反対の袖で拭きとった

「岡崎に部活休むって言ったら、入部2日目でサボるのか?って怒鳴られた」

越智君が苦笑して、肩を竦めた

あ…そうだよね

「でも平気だから。5キロ走ったら、帰っていいって」

越智君がにっこりと笑う

あれ? 越智君の左側の頬が赤い気がする

「越智君、頬…腫れてる?」

越智君の手がぱっとあがると左側を押さえた

「わかる? 冷やして寝たんだけど、やっぱ目立つ?」

越智君が、左の頬を擦った