『凛、この人となら絶対に幸せになるから』

バスケの練習中に、骨を折って入院した病院のドアの向こうから、そんな言葉が聞こえてきた

何、言ってんだ? コイツ……

そう思って、ドアに寄り添うに立って、隙間から見える人影に目をこらした

『あたし、まだ結婚とかって…考えられないし』

どっかの高校の制服をきた少女が、首を横に振っている

身体からは、結婚したくないというオーラを放っている

あの子、確かこの病院の娘だよな

…てことは、あの子の前に立ってるのは母親か?

『大丈夫よ。この結婚に失敗はないわ。必ず幸せになる。彼はとっても優秀な医師よ』

馬鹿げてる

親が子の幸せを願うのはわかるが…押しつけがましい

本当に幸せになるかどうかってのは、自分自身で見極めるべきだ

他人にあれこれ言われて、決めるもんじゃないだろ

少女は顔を伏せると、すごく寂しそうな顔をして廊下の床を見つめた

『凛…越智の家のためよ。愁一郎はあてにならないわ。だから…』

あんなこと言って…俺だったら完全に白けるな

やる気も失せる

なんで他人のために、そこまでやらなくちゃいけないんだよって思うだろ?

いくら家族だからって、己の幸せを犠牲にする必要なんてないんだ

犠牲にしろって言う親のほうが間違ってる

だけど…あの子はきっとそんな風に考えられそうにないよな