ただの陸上馬鹿ってわけじゃないんだ

きちんと成績を残してるんだね

「越智君は? 大ちゃんに憧れてる?」

「中学のときはね。あの人を越えてみたいっていう気持ちはあったよ」

「今は?」

「ない…かな。親父と約束したんだ。高校は勉強を頑張るって。だから、陸上は中学で終わりにしようって」

あたしは足を止めると、前に出た越智君の肩を見つめた

「じゃあ、なんで? また…部活を?」

聞いちゃ駄目…そう胸の中では警告をあげていた

その答えを聞いたら…もしかしたら、しぃちゃんを裏切ってしまうかもしれない、と

昼休みの大ちゃんとの会話が『もしかしたら聞いていたかもしれない』から、『絶対、聞いていた』にあたしの中に変化していった

越智君が足をそろえて立ち止まると、前髪をさらりと風に揺らしながら振り返った

しぃちゃんを見るときとは違う

すごく温かくて、優しい笑みであたしを見ている

「想い出を作りたい……涼宮陽菜と」

あたしの目から一気に涙があふれ出した

目が火傷したんじゃないかってくらい熱くて、ぼろぼろと涙がこぼれた

「き…聞いて、あの時…聞いてたんだ」

越智君が一歩前に出ると、あたしの肩をそっと抱きしめた

「腕立で疲れて動けずにはいたけど、気は失ってなかった」

「じゃあ…持病のことも?」

「それはもうちょっと前から知ってた」

越智君の温かい手が、あたしの背中をそっと撫でてくれる

あたしは越智君の胸の中で、次から次へと流れ落ちる涙を止められずにいた

「え?」

「親父の仕事を手伝ってるって言ったでしょ? 涼宮は、俺の父の患者なんだ。カルテの整理をしてて、名前を見て驚いた」

担当の先生の…息子が越智君?

越智君ってお医者様の息子?

あの…大病院の?