君を愛す ただ君を……

バイトが終わって、5時半にアパートに戻ると、先生が毛布に包まって、テレビの前で横になって寝ていた

ベッドで寝ればいいのに

もともとベッドは先生の私物だよ?

この部屋のほとんどは、先生が自分で用意したモノばかりなんだよ?

「先生って生真面目だね」

私は着替えを一式持って、シャワーを浴びた

バイト中についた煙草のにおいや酒のにおいが、石鹸に匂いにかわると身体が軽くなったような気がした

シャワーから出てきても、先生の態勢は全然変化してなかった

あと15分で7時になるなあなんて考えながら、カーテンを少し開けると、その音に反応した先生が目を覚ました

「アキちゃん…今、何時?」

「もう少しで7時ですよ」

私は窓を見つめながら、先生に答えた

「そっか。一度、帰って着替えなくちゃだ」

「先生、奥さん……実はドイツには行ってなかったんじゃないですか?」

先生が起き上がると、「ん」と小さく頷いた

「あいつが珍しく『早く帰ってきて』なんてメールしてくれたからさ。嬉しくて、ケーキを買って帰ったんだ。そしたら、テーブルの上に離婚届けが置いてあって……サインして実家に郵送してくださいって置き手紙があった」

あのケーキは、奥さんに買ってあげたものだったんだ

私が食べちゃったけど

私は、朝日に照らされる先生の邸宅を眺めていた

「実家に行って話をしたけど…無駄足だったよ。もう僕に抱く感情は憎しみしかないって言われた。愛情があったのは、結婚して最初の3年だけだって。息子が独り立ちするまではって、ずっと我慢してたらしいよ」

先生が身体を丸めて、小さくなった

まるで外敵から身を守るように、丸まったダンゴムシみたいに

「アキちゃん、僕は妻に何も言えなかったよ。父から受け継いだ病院で、一人でも多くの患者を救いたい一心で仕事をしてきた。妻はそれを理解し、僕を支えてくれてるって勝手に信じてた。だけど実際は違った。妻は育児と家事に疲れ果ててた。気づくのが少し遅かったかな」

越智先生が、顔をあげると今にも消えてしまいそうな笑みを見せた