君を愛す ただ君を……

「先生、ちゃんと家に帰らないと。奥さんが心配してますよ?」

「アキちゃん、今週末、旅行しない?」

「え?」

「温泉付きの良い宿を見つけたんだ」

「泊まりがけは……マズいんじゃないですか?」

私は膝を折ると、越智先生の疲れている顔を覗き込んだ

「昨日から、2週間…妻は娘と一緒に息子のいるドイツに行ってるんだ」

「ああ、わかった! 先生、一人で寂しいんだぁ」

私はひとさし指で、先生のおでこをツンと突くとにっこりと笑った

「寂しいよ」

「先生、そうやって奥さんにちゃんと言ってますか?」

私は立ち上がると、キッチンに向かった

「先生が素直になれば、奥さんだってきっと……」

食器棚の中にあるマグカップに手を伸ばそうとした私は、先生に後ろから抱きつかれた

「アキちゃん、僕たち夫婦はもう駄目かもしれない」

今にも泣きだしそうな声の先生で、私はマグカップを取り損ねた

胸がドキドキしている

先生には奥さんがいる

そう思っていても、先生の手が私の身体に触れてくれる期待をしてしまう

「先生、諦めちゃ駄目です」

「そ、だね。もう一回、頑張ってみるよ」

先生が苦しそうに笑ってから、私からそっと離れた

「ケーキ…私とじゃなくて、奥さんと二人で食べて」

私は、ケーキの箱を先生に渡した

「アキちゃん、こんな時間にケーキを持って帰るほうが、余計怪しまれるよ」

力のない笑みで先生が笑うと、靴を履いてアパートを出て行った