ゆっくりと顔をあげると、スーツを着ている越智先生が見下ろしていた

「やっぱり…アキちゃんだ」

越智先生が、私の顔を見てにっこりと笑った

「は?」

「アキちゃんでしょ? 15年前、僕が手術をした南 亜姫ちゃん」

なんで、覚えてるの?

もう15年も前の話だよ?

「……」

「あれ? 違った? 記憶力は良いほうなんだけど」

越智先生が、首を傾げると困った表情になった

「合ってます。私、南 亜姫です」

「ん。良かった」

「はあ…」

満足そうにしている越智先生を私は座ったまま、じっと見つめた

15年前と変わってない笑顔に、私はほっとする

笑うとできる目じりの皺の数が、2つほど増えているのはきっと、年のせいだろう

「具合、悪いの?」

「は?」

「だって、座り込んでるから」

私は座布団代わりにしていた鞄に視線を落とした

慌てて立ち上がると、鞄の埃を払ってから、持ち上げた

おもっ……

ずっしりと感じる重みを腕に受けながら、私は鞄を越智先生に差し出した

「これ……何も言わずに受け取ってください」

「何も聞いちゃいけないの?」

越智先生が、質問をしてくる