玄関のカギを閉めているあたしに、愁一郎が質問してくる

「第一外科の先生」

「はあ? 今更かよ」

「レイちゃんにもそう言われた。けど、あたし、第一外科の先生しか知り合いがいないし」

「コンパじゃねえし、ただのランチ会じゃん」

「愁一郎みたいに、何もしなくても異性の知り合いが増えるわけじゃないの」

「増えてないだろ」

「ふうん」

あたしが流し眼で、隣を歩く愁一郎を睨んだ

「…な、なんだよ」

「『越智先生に奥さんがいるのは、知ってます。でも好きなんです。付き合ってください』って白衣のポケットの中に手紙が入ってたよ」

一昨日、目にした手紙をあたしは思い出した

洗濯しようとした白衣の中に、可愛らしい封筒に入っていたラブレターを見つけたのだ

愁一郎の頬がひくひくと動くと、ぷいっと横を向いた

「知らねえよ」

「別にいいけど」

「もしかして…今日のランチ会って、その手紙を見たせい?」

「さあ?」

「おいってば。ただの手紙だろ。なんかポケットに突っ込まれたな…とは思ったけど、その看護師とは何でもないし」

愁一郎が必死になって言い訳している姿が、ちょっと面白いなと思ってしまう

「ふうん、看護師なんだ」

「あ…まあ、そうだけど」

「楽しそうな職場だね」

あたしはにこっと笑うとスタスタと早足で、歩き始めた